beerhole’s blog

ウェブデザインを中心とした雑記。自分用のメモ。音楽と美味しいもの、ライフスタイルについても少々。

ジョナサン・アイブの本から学ぶデザイナーのキャリアパスについて

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ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー」を読んだ。

私がアップルを好きになったきっかけは、タンジェリンのG3である。つまり、スティーブ・ジョブズとジョナサン・アイブのコンビによるプロダクトがきっかけなのだ。なので本書が発売されるとすぐに買ったものの、デザインから遠ざかっている時期ということもあり、しばらく読んでいなかった。いまデザイン思考の流れも含めて気持ちが、デザインについて向き合っているので改めて読んでみた。

 

ジョナサン・アイブ自身は本質的にはインダストリアルデザイナーだが、デザイナー全般のキャリアパスを考えさせられる一冊だった。
インダストリアルデザイナーかどうかは大した問題ではない。産業革命もアーツアンドクラフツ運動も発祥のイギリスで、あの時代に生まれてデザイナーを目指すならばインダストリアルデザイナーを志すのがポピュラーだ。むしろ、ジョナサン・アイブの才能が最大限発揮されたのはiOS7のタイミング、ハードウェアとソフトウェアの両方をみるようになってからだと思う。もし今ジョナサンアイブがデザインの学生であるならば、ソフトウェアのUIデザイナーになっているかもしれない。


さて、ジョニーアイブ自身は非常にエリートすぎて、とてもじゃないけど共感を持てる経歴では決してなかった。銀細工職人であり工芸の教師でもある父を持ち、高校生の頃からデザインコンペで賞を取りはじめデザイン業界で注目され、イギリスの工業デザイン分野の名門大学へ特待生的に入学し、大学の初日がデザインコンペの授賞式とカブって欠席してしまう、というような超がつくエリートである。卒業後の彼の経歴は

 

(1) イギリスを代表するデザイン事務所、ロバーツウィーバーグループ(RWG)へ入社 →
(2) タンジェリンというデザインコンサルティングファームへ3人目のパートナーとして参画 →
(3) Appleへ入社

 

となる。(1)から(2)への転職はシンプルな話で、当時のイギリスの経済状況もあり会社の経営が芳しくなく、ジョニーのマーケットの評価に対して、会社が応えられていなかった、というもの。あとは若干の上流工程へスイッチしたい想いがあったのかもしれない。(2)のときに関しては彼は経営者でもあったので、営業をしなければいけなかったのだが、本来はデザインに没頭したかったのと、あとはこのように書かれている。

 

「部外者は製品開発を根本から変えられないし、真のイノベーションを起こすのは難しい」とジョニーは言う。ほとんどの場合、契約を結ぶ前に社内で重要な決断の多くは下されている。全く新しいことを行うには、組織内部で劇的な変化を起こさなければならない」

 

この点については非常に共感できる。私も同様に受託制作では出来ることが限られてしまうと考えて、制作プロダクションから事業を行っているベンチャーに転職したのだ。そして現在も事業会社にいる。

 

他にもふたつの、示唆に富んだ内容があった

 

a) ジョニー・アイブのすごさももちろんだが、とにかくスティーブジョブズのすごさが際立っていた。デザイナーが輝けるかどうかは働く経営者の哲学や思想との相性が大きいと思う。スティーブ・ジョブズのような優れた審美眼と品質へのあくなきこだわりを持った経営者に恵まれるかどうか。共に働く経営者選びは非常に重要である。

 

b) ジョニーをアップルへ誘ったブルーナーは元々デザイン責任者としてアップルから誘われた際に、社内にデザイン組織がないという理由で2度断っている。「自社でモノをデザインしない企業では働きたくなかった」と本書で語っている。結局彼はアップルに対して「社内に本物の卓越したデザインスタジオを持つべきだ」と提言し、入社後時間はかかったが、大企業の中にありながら、小規模で、優秀で、スピードがあって、才能にあふれ、豊かな文化のある組織を環境を作っていき、ジョニーのような優秀な人材をヘッドハンティングしていった。自分の力を最大限に発揮出来る環境を作ることが非常に重要である。

 

自分がどの部分でデザインに関わりたいのか。何を求められているか。どうゆう環境を作れるか。少ない情報から知りながら、自分にフィットしたキャリアを考えていくしかない。考えていきたい。

 

あとは、彼がジャスパー・モリソンやディーター・ラムスを好きなところは、私も大好きなので、だからジョニー・アイブのデザインも好きなんだな。と思ったり。

 

最後に、やはり彼の最大の功績はこれだと思う。

 

ジェリービーン色のiMacが発売されると、同じスタイルの雑多な製品があとに続きました。6種のジェリービーンカラーのホチキスなんかもありました。iMacのおかげで消費者がそれまでになくデザインに敏感になったのです。おそらくそれが一番大きな変化でしょう。今ではだれもがいいデザインを期待します。