村上春樹とボブ・デュランとスティーブ・ジョブズと〜ボブ・デュランの好きになり方〜
ボブ・デュランがノーベル文学賞を受賞した。村上春樹ファンのガッカリした声や文壇の賛否両論は当然あるだろうが、僕は単純に嬉しい。村上春樹も大好きだがそれ以上にボブ・デュランが大好きだからだ。なので、このようなきっかけで世間の注目が集まり、しっかり聴いたことのない人がとりあえずYouTubeで聴いてみたり、歌詞を調べてみたり、CDを買ってみたりするのはとても良い事だと思う。
でもきっと若い世代やこれまでボブ・デュランに興味なかった人にとっては難解で退屈な音楽かもしれない。別にこれは自分を通ぶって言っているのではなく、同じように自分が十代の頃、自らの意思で初めてビートルズを聴き直したときの感想が「古臭くて退屈でローファイな音楽」だと思ったからだ。(当然、その印象は次第に払拭される)
音楽はその時代を表す鏡のようなものなので、時を超えて聴くには、そのカルチャーや時代背景をある程度理解した上じゃないともったいないのだ。そういうわけで個人的に、ボブ・デュランをもっと好きになる本を2冊紹介したい。これらを読んでから聴くと印象は全く違うものになると思う。
アイデン&ティティ―24歳/27歳 - みうらじゅん 1997 (角川文庫)
こちらは映画(監督:宮藤官九郎)にもなったので知っている人も多いとおもう。舞台はバンドブームの終わりに差しかかった頃。主人公の空想の中でドラえもんよろしくボブ・デュランが登場して主人公の「真のロックとは?」「自分のアイデンティティとは」の葛藤や悩みに答えるというもの。この作品を読むとみうらじゅん氏の愛とリスペクトを通じて、ボブ・デュランの素晴らしさや偉大さを知る事ができる。そして何より、実際に歌を聴きたくなるのだ。
スティーブ・ジョブズ - ウォルター・アイザックソン 2011(講談社)
ご存知スティーブ・ジョブズの自伝。本書にはしきりにボブ・デュランが登場する。西海岸とヒッピー文化と、カウンターカルチャーと、LSDと、禅と、ボブ・デュラン。どのような背景を経て、Appleが、iPhoneが生まれたのかがよくわかる。もっとも象徴的な一節は、初代Macintoshが発表された1984年の株主総会にて、スティーブ・ジョブズがThe Times They are a Changin’の詩を朗読するシーンだ。これがウルトラかっこいい。実際に時代を変えたのだから。
実は僕は、これに非常に影響を受けたクチで、(以前のエントリーでもこの曲が登場する)勝負という日にはThe Times They are a Changin’を聴きながら出かけるようにしている。
いかがでしょうか。これをきっかけにボブ・デュランを好きな人が増えたら嬉しいな。初めに買うならThe Times They Are a-Changin'(1964)がおすすめです。
ちなみに村上春樹の作品「世界の終りとハードボイルド・ワーンダーランド」にもボブ・デュランは登場する。Like a Rolling Stone、Blowin' in the Wind、Hard Rainを聴きながらこの小説を読んでみるのも良いだろう。 今回の発表を受けて、「ボブ・デュランの作品に村上春樹は出てこないけど、村上春樹の作品にボブ・デュランは出てくる。そういうことさ」みたいな事をつぶやいている人がいたけど、うまい事言うなと思った。
追伸: トレインスポッティングのアービン・ウェルシュ氏が「私はディランのファンだが、これは、もうろくしてわめくヒッピーらの悪臭を放つ前立腺がひねり出した検討不足で懐古趣味な賞だ」とTwitterでつぶやいてたようだ。最高だな。
膨張するデザインの持つ意味 / ポール・ランドのデザイン思想(Thoughts on Design / Paul Rand)を読んで
僕がポール・ランドの本に興味を持ったきっかけはジョン・マエダ氏だ。ジョン・マエダ氏はMITでソフトウェア工学の修士を取得した後、筑波大学大学院で芸術の博士を取得している。MITメディアラボの副所長などを経て現在はWordPressにいる。
スティーブジョブズの言葉「文系と理系の交差点に立てる人こそ大きな価値がある」じゃないけれど、間違いなく、文系と理系の交差点に立っている人間だと思う。経歴やアウトプットには憧れないが、僕も文系と理系、デザインとシステムの関係のような相反するものの関係性を人生のテーマにしているので、ジョン・マエダ氏は当然雲の上のロールモデルである。そんな彼がデザインに興味を持ったきっかけが図書館で「ポール・ランドのデザイン思想」を読んでからだという。その記事を読んですぐにAmazonの欲しいものリストに追加した。
また、ジョン・マエダ氏の語っている「3種類のデザインについて」にあるように、
デザインの意味がどんどん変わってきているからこそ、あえてクラシックなデザインの本を読んで、デザインのもつ普遍的な部分は何かを探りたかったのもある。
あとは最近わけあってビジネス書ばかり読んでいるので、これくらい文字の少ないビジュアルブックを読んで頭を休めたかったというのもある。そんなに頭の作りが優れてないので、すぐ疲れるのである。
本を読むにあたり、ポール・ランドのことは当然知っていたけどIBMのロゴデザインの人くらいにしか知らなかったので、色々ネットで調べてみた。デザインを独学で学んだことと、「ポール・ランド」という名前も本名ではなく(ユダヤ人であることを隠したい時代的な背景があったにせよ)彼が作った最初のコーポレートアイデンティティのようなものだという点。ちなみにこの本は1947年に彼が33歳のときに書かれたもので偉大なIBMロゴもABCテレビのロゴも誕生してはいない。
いくつか気に入ったメッセージを引用。
「グラフィックデザインとは、見る者にメッセージを伝えられなければ、優れたデザインとは言えない。」
「デザインはそれが広告であれ、出版物であれ、工業製品であれ、常に美しく、目的に適うことが必要である。コンセプトが非常にわかりやすいヴィジュアルで表現されていてこそ、優れたデザインと言える。また、優れたデザインであればあるほど、ごくありふれたものが、洗練されて見える。」
常に美しくあること、目的に適っていること、コンセプトを伝えること
これは別にデジタルデバイスでも、UIデザインでも、ビジネスデザインでも、何も変わらない。
当時はコーポレートアイデンティティが担う役割が、現代はビジネスデザイン(デザインシンキング)やテクノロージデザインに変化しただけのことだと思った。デザインの本質は変わらない。問題解決の手法だ。買ってよかった。
追伸:ところでこの帯、今目にすると味わい深い。「デザイン界のドン。一度でいいから叱られてみたかった。- 佐野研二郎」
「UX戦略」を読むと、ビジネスの世界とデザインの世界がすごいスピードで融合していっているのを肌で感じれる。
私はアートの学位を取得して、デザイナーとしてキャリアをスタートしています。アウトプットはさておき、表層(サーフェイス)部分=ユーザーの目に実際に見える部分を制作していました。つまり、ユーザーの目に触れる一番近い存在になります。なのでデザイナーはユーザー視点にならざる負えないので、自然とユーザー視点で物事を考えるようなクセがついていきます。
※ Jesse James Garretの5Planes Model
表層を決めるのは、戦略であり、要件・構造・骨格になるので、理想とするデザイン実現の為に上流工程(※上記の表では下へ下へ)にスイッチしてきました。現在は事業会社で事業戦略や事業企画の立場にいます。今度は逆に、ビジネス戦略からスタートすると本当に後半になるまでアウトプットの絵が見えない(メンバーと共有出来ない)ことに気づきました。私はたまたまデザイナー出身なので何となくアウトプットのイメージを戦略段階から頭の中で描きながら進行しています。でも、そうじゃない人はラフが仕上がるまでイメージができてない場合すらあります。
なのでビジネスのフレームワークなどを学んだり、先日の「デザイン思考が世界を変える / ティム・ブラウン 」を読んだりして、いかにメンバーに共有していくかという悩みを抱えながら日々仕事をしています。「UX戦略〜ユーザー体験から考えるプロダクト作り〜 / ジェイミー・レヴィ 」を読んだのもそんな理由からでした。
UX戦略 = 「ビジネス戦略」 + 「価値の革新」 + 「検証のためのユーザー調査」 + 「革新的UXデザイン」
本書では上記のフレームワークに基づいて、具体的な事例と共にワークプロセスを進行していく、とてもわかりやすいものだった。あとは、UX戦略とは何かの説明と、UX戦略家のインタビューが掲載されている。
大きなポイントは、それぞれのプロセスで必ず検証の為のユーザー調査が行われて、仮説が否定されたら元のステップに戻る、ということ。ざっくりの流れは下記の通り。
STEP1. ビジネス戦略+検証の為のユーザー調査
マイケルポーター氏の本 からの引用で「コスト優位性」と「差別化」もしくはどちららもと記載している。それを見つけるために、「ビジネスモデルジェネレーション / アレックス・オスターワルター、イヴ・ピニュール 」の中にあるビジネスモデルキャンバスを利用して仮説を立てる。そしてこの段階でユーザー調査を行い仮説が思い込みじゃないかを検証する。ここでの検証はプロトタイプではなく、簡易ペルソナを作成してユーザーニーズ(バリュープロポジション=ユーザーにとっての価値)が存在しているのかどうかを探る。また、競合調査を「直接的競合」「間接的競合」「影響のある競合」で行う。
STEP2. 価値の革新+革新的UXデザイン
前のステップの仮説やユーザー調査や競合調査を元に、2つの要素の検討を合わせて行う。競合調査を「間接的競合」と「影響のある競合」まで範囲に含めているのはその為だろう。価値の革新=ユーザーのメンタルモデルの変更と書いてあるが、「価値の革新」は「革新的UX」から生まれているので2つの要素をセットで検証しているのだと思われる。例としてAirBnBとTinderを挙げているが、たしかにどちらも「価値の革新」と「革新的UXデザイン」を兼ね揃えている。
STEP3. ビジネス戦略+検証の為のユーザー調査+価値の革新+革新的UXデザイン
ステップ1,2を踏まえて、MVP(必要最低限の機能を持つプロトタイプ)を制作して、ユーザー調査を行う。バリュープロポジションそのものに誤りがあればSTEP.1に戻る。課題解決方法に誤りがあればSTEP,2に戻る。
STEP4. 製品の最適化
プロトタイプを製品版としてブラッシュアップ。ファネルマトリクスツールを利用する、といった流れ。そもそも私の関わったことのある事業ではビジネス戦略の段階でのユーザー調査は行ったことがほとんどなく、このプロセスを実務に持ち込めたら、よく起こりがちな「サービスを開始したが上手くいかない」「立ち上げてみたらイメージと違うとステークスホルダーに言われた」などは解消できるのではと思えた。デザインシンキングに基づいたプロセスの一例だと思う。
それでは以下、簡単にまとめます
誰が読むといい本?
インターネット上で新しいサービスを生み出したい人や企業及びその業務に関係するパートナー、つまり
- スタートアップを立ち上げようとしている人
- デザインコンサルタント
- 商品企画のブランドマネージャー
- 上流工程にスイッチしようとしているデザイナー
すぐに役に立つの?
具体的なフレームワークが数多くあるので役に立つ。UXデザインに関してもファネルマトリックスというツールを利用していて、こちらはとてもわかりやすく早速使ってみたいと思った。UX戦略とかデザインシンキングといった類の信者にはカスタマージャーニーマップは必須のツールのイメージなのだが、著者があまり推奨していないのが印象的だった。著者は本書内での製品をデジタルサービスと限定しており、逆に私はオンライン製品に限った戦略じゃないので、ジャーニーマップでも有用なのかと思った。
UX戦略とは?
ビジネスの目標を実現する、高い目標を持った計画。ビジネス戦略を包括した上位概念?またはビジネス戦略を含む様々な要因との大きな関係性まで含む戦略、と解釈しました。
今日からはじめよう
先日のデザインシンキングは「考え方」の考え方の本だったので、具体的な手法ではなかった。本書のプロセスを参考に自分にあったフレームワーク、ワークプロセスを見つけていきたいと思う。
さいごに
音楽の歌詞や名言の引用が非常に多く、ニールヤングやソニックユースがピータードラッガーと同列に語られていて、個人的には楽しく読めたし何より最高だ。UIデザインは極めてロジックの世界かもしれないが、UX戦略やUXデザインの場合はロジックとセンスのバランスが重要。スティーブ・ジョブスやジョシュア・デイヴィスじゃないが、カルチャーに精通したビジネスパーソンや(デジタル寄りの)クリエイターは逆に日本にはあまりいない。もっと増えたら面白くなると思う。
そういえばWIREDの記事でジョンマエダ氏も以下のようにカウンターカルチャーの影響に触れている「助け合い、シェアするといった、ヒッピーの感覚のようなもの。そうした『オープンソースのメンタリティ』がありました」世代なのかもね。
世界はそれをデザインと呼ぶんだぜ
こんばんわ、Mr.T(@MsterTeeee)です。久しぶりに更新します。
僕は、学生時代の手伝いのようなものも含めると、15年近くデザインの仕事をしてお金を稼いできました。ここでいう「デザイン」というのはCDジャケットや雑誌広告、フライヤー・ポスターやグッズなどの販促物、様々なウェブサイトの制作を指します。そして、当たり前のように毎日PhotoshopやIllustratorを使用していました。でも、ここ数年は「デザイン」から遠ざかっています。
まず、現在の勤務先はデザインスタジオ(制作会社)ではなく、小売の事業会社になります。部署の名前も担当名も、デザインに関連する部門ではありません。肩書きも全く関連しません。パソコンには当然PhotoshopやIllustratorはインストールされていません。
僕はこんな環境にいる自分を、学生時代の仲間に対して後ろめたく思っていました。なぜなら有名な美大や芸大を卒業した人でも、皆アートやデザインの仕事に就くわけではなく、まして僕の卒業した(一般的には落ちこぼれの)総合大学の芸術学科となれば、なおさらです。
そんなわけで数少ないデザインの仕事をしている仲間を(一方的に)大切に思っていましたし、卒業してもデザインの仕事に就かない人たちを僕はずっと「あいつらは最初からデザインが好きではなかった」などと思っていました。
だから、デザインから遠ざかっている自分を裏切り者のように感じていたし、最近は連絡もあまりとっていない状況になっていました。
でも、こちらの本を読んで、色々なモヤモヤが吹き飛びました。
デザイン思考が世界を変える (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) / ティム・ブラウン
ずっと気になっていながらも、非デザイナーがデザイナーらしく考える為の本だと思っていたから、別に読まなくても平気だと思っていたり。
P53より
苦労してデザインの学位を取得した人々は、スタジオ以外での役割を想像すると困惑するかもしれない。しかし、もはや成熟の域に達したデザイン分野にとって、これは必然の流れと考えるべきだ。新しい作品を製作する、新しいロゴを作る、魅力的な(少なくとも無難な)筐体に驚異のテクノロジーを組み込む、といった二十世紀のデザイナーの課題は、二十一世紀をかたどる課題とはいえない。
これは本当に目からウロコでした。そうか、デザイン分野は成熟しきっているのか、と(よく考えたら当たり前ですよね)。これまで無意識に「(特に受託における)デザイナーの立場で出来る事なんて限られている」と思い、サービス運営側(事業会社)に転職したいとか、更には、もっと上流工程(事業戦略とか事業企画)をやりたい、とか思っていたのはこういうことだったのか。
それでは、本の内容について簡単に
誰が読むといい本?
基本的には、ビジネス視点で戦略を考える人向けだと思います。でも直線的思考の人は、おそらく困惑するだろうし、すぐに取り入れるのも難しいと思った。逆に、成熟しきったデザイン業界で、デザイナーが生き残るのに身につけないといけない思考なのではと思う。そういう意味ではクラシックなデザインを学んできた人向け(まさに自分)。
すぐに役に立つの?
明確なフレームワークはほとんど書かれていない。そして下記のように書かれています。あとは、個人的な感想ですが、これを実践できる環境を組織に取り入れるのが本当に難しいと思う。頭でわかったところで、個人でやるものじゃないし、大企業におけるデザイナーの存在はいわずもがな。
本書は「ハウツー本」ではない。デザイン思考のスキルは実践から習得するのが一番だからだ。本書の目的は、偉大なデザイン思考のもとになる原理や手法を理解する「枠組み」をお届けすることだ。
結局「デザイン思考」とは?
人間中心のデザイン、人間を物語の中心に捉える、人間を最優先に考える、、、本書の中にも度々出てきましたが、一番ピンときたのは「ニーズを需要に変える」為の思考。ブレインストーミングやプロトタイプ製作はその手段にしか過ぎないと思うので。また、プロセスや考え方はUX戦略やアジャイルやリーンなども近いと感じました。
あの製品って「デザイン思考」から生まれたのでは?そう思った事例
明日からはじめよう
「スタートからかかわる」「人間中心のアプローチを尊重する」などは、サービス運営側(事業会社)に転職した理由を思い出させてくれた。
逆に「早めに何度も失敗する、どれだけ早くアイデアを形にし、検証・改良できるか?(プロトタイプの製作)」「物語を作り上げてアイデアを共有する」みたいな部分は(デザイナー的スキルを)あえて封印していた部分があるので、すぐにでも取り入れたいと思う。
もしかしたら自分は、デザイン思考でイノベーションを生みたいのではなく、デザイン思考を組織に広めたいのかもしれない。
さいごに
結局、自分がいまやっていることは変わらずデザインなのだと思えた。それがとても嬉しい。そういえばと思ってジョンマエダ氏の「3つのデザイン」論を読んでもしっくりくる。そして、今この瞬間にデザインと呼んでいないだけで今後はデザインと呼ぶのかも知れない。とりあえず、疎遠になっている昔の仲間を食事に誘おうと思いました。
おまけ
自分が知らなかっただけで、現代のアートスクールでは「デザイン」を「デザイン思考」として当たり前に教えているのかも知れない。それから、20代の人間と話してみると別にデザイン思考を学んでなくても「文系と理系」「感覚と理論」「右脳と左脳」のバランスの取れた人間が普通にいる。彼らは肌感覚でそういう時代だと認識しているのだろう。これは素晴らしく思うと同時に自分もがんばろうと思わされる。
UIデザインをエントロピーの法則で語っている。
備忘録:課題解決でよく使うフレームワークまとめ
何かのときに必要になるので。
UXの基本とは
わかりやすくまとめてある