beerhole’s blog

ウェブデザインを中心とした雑記。自分用のメモ。音楽と美味しいもの、ライフスタイルについても少々。

「UX戦略」を読むと、ビジネスの世界とデザインの世界がすごいスピードで融合していっているのを肌で感じれる。

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私はアートの学位を取得して、デザイナーとしてキャリアをスタートしています。アウトプットはさておき、表層(サーフェイス)部分=ユーザーの目に実際に見える部分を制作していました。つまり、ユーザーの目に触れる一番近い存在になります。なのでデザイナーはユーザー視点にならざる負えないので、自然とユーザー視点で物事を考えるようなクセがついていきます。

 

https://www.unisys.co.jp/solution/tec/usability/concept/s33drt000007avvu-img/concept_2.jpg

※ Jesse James Garretの5Planes Model

表層を決めるのは、戦略であり、要件・構造・骨格になるので、理想とするデザイン実現の為に上流工程(※上記の表では下へ下へ)にスイッチしてきました。現在は事業会社で事業戦略や事業企画の立場にいます。今度は逆に、ビジネス戦略からスタートすると本当に後半になるまでアウトプットの絵が見えない(メンバーと共有出来ない)ことに気づきました。私はたまたまデザイナー出身なので何となくアウトプットのイメージを戦略段階から頭の中で描きながら進行しています。でも、そうじゃない人はラフが仕上がるまでイメージができてない場合すらあります。

なのでビジネスのフレームワークなどを学んだり、先日の「デザイン思考が世界を変える / ティム・ブラウン 」を読んだりして、いかにメンバーに共有していくかという悩みを抱えながら日々仕事をしています。「UX戦略〜ユーザー体験から考えるプロダクト作り〜 / ジェイミー・レヴィ 」を読んだのもそんな理由からでした。

 

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UX戦略 = 「ビジネス戦略」 + 「価値の革新」 + 「検証のためのユーザー調査」 + 「革新的UXデザイン」

本書では上記のフレームワークに基づいて、具体的な事例と共にワークプロセスを進行していく、とてもわかりやすいものだった。あとは、UX戦略とは何かの説明と、UX戦略家のインタビューが掲載されている。
大きなポイントは、それぞれのプロセスで必ず検証の為のユーザー調査が行われて、仮説が否定されたら元のステップに戻る、ということ。ざっくりの流れは下記の通り。

STEP1. ビジネス戦略+検証の為のユーザー調査

マイケルポーター氏の本 からの引用で「コスト優位性」と「差別化」もしくはどちららもと記載している。それを見つけるために、「ビジネスモデルジェネレーション / アレックス・オスターワルター、イヴ・ピニュール 」の中にあるビジネスモデルキャンバスを利用して仮説を立てる。そしてこの段階でユーザー調査を行い仮説が思い込みじゃないかを検証する。ここでの検証はプロトタイプではなく、簡易ペルソナを作成してユーザーニーズ(バリュープロポジション=ユーザーにとっての価値)が存在しているのかどうかを探る。また、競合調査を「直接的競合」「間接的競合」「影響のある競合」で行う。

STEP2. 価値の革新+革新的UXデザイン

前のステップの仮説やユーザー調査や競合調査を元に、2つの要素の検討を合わせて行う。競合調査を「間接的競合」と「影響のある競合」まで範囲に含めているのはその為だろう。価値の革新=ユーザーのメンタルモデルの変更と書いてあるが、「価値の革新」は「革新的UX」から生まれているので2つの要素をセットで検証しているのだと思われる。例としてAirBnBとTinderを挙げているが、たしかにどちらも「価値の革新」と「革新的UXデザイン」を兼ね揃えている。

STEP3. ビジネス戦略+検証の為のユーザー調査+価値の革新+革新的UXデザイン

ステップ1,2を踏まえて、MVP(必要最低限の機能を持つプロトタイプ)を制作して、ユーザー調査を行う。バリュープロポジションそのものに誤りがあればSTEP.1に戻る。課題解決方法に誤りがあればSTEP,2に戻る。

STEP4. 製品の最適化

プロトタイプを製品版としてブラッシュアップ。ファネルマトリクスツールを利用する、といった流れ。そもそも私の関わったことのある事業ではビジネス戦略の段階でのユーザー調査は行ったことがほとんどなく、このプロセスを実務に持ち込めたら、よく起こりがちな「サービスを開始したが上手くいかない」「立ち上げてみたらイメージと違うとステークスホルダーに言われた」などは解消できるのではと思えた。デザインシンキングに基づいたプロセスの一例だと思う。

 

それでは以下、簡単にまとめます

誰が読むといい本?

インターネット上で新しいサービスを生み出したい人や企業及びその業務に関係するパートナー、つまり

  • スタートアップを立ち上げようとしている人
  • デザインコンサルタント
  • 商品企画のブランドマネージャー
  • 上流工程にスイッチしようとしているデザイナー

すぐに役に立つの?

具体的なフレームワークが数多くあるので役に立つ。UXデザインに関してもファネルマトリックスというツールを利用していて、こちらはとてもわかりやすく早速使ってみたいと思った。UX戦略とかデザインシンキングといった類の信者にはカスタマージャーニーマップは必須のツールのイメージなのだが、著者があまり推奨していないのが印象的だった。著者は本書内での製品をデジタルサービスと限定しており、逆に私はオンライン製品に限った戦略じゃないので、ジャーニーマップでも有用なのかと思った。

UX戦略とは?

ビジネスの目標を実現する、高い目標を持った計画。ビジネス戦略を包括した上位概念?またはビジネス戦略を含む様々な要因との大きな関係性まで含む戦略、と解釈しました。

今日からはじめよう

先日のデザインシンキングは「考え方」の考え方の本だったので、具体的な手法ではなかった。本書のプロセスを参考に自分にあったフレームワーク、ワークプロセスを見つけていきたいと思う。

さいごに

音楽の歌詞や名言の引用が非常に多く、ニールヤングやソニックユースがピータードラッガーと同列に語られていて、個人的には楽しく読めたし何より最高だ。UIデザインは極めてロジックの世界かもしれないが、UX戦略やUXデザインの場合はロジックとセンスのバランスが重要。スティーブ・ジョブスやジョシュア・デイヴィスじゃないが、カルチャーに精通したビジネスパーソンや(デジタル寄りの)クリエイターは逆に日本にはあまりいない。もっと増えたら面白くなると思う。

そういえばWIREDの記事でジョンマエダ氏も以下のようにカウンターカルチャーの影響に触れている「助け合い、シェアするといった、ヒッピーの感覚のようなもの。そうした『オープンソースのメンタリティ』がありました」世代なのかもね。